放射線治療症例集

頭部

多発転移性脳腫瘍

58歳男性。VMAT を用いたSRSにより、9個の脳転移に同時ピンポイント照射しました(7グレイ×5回)。専用のプラスチック固定具とステレオX線位置照合システムにより、1 mm/1°以内の精度で治療することができます。1回の治療時間は15分以内です。近年、放射線治療後の高次機能障害(認知機能低下)を考慮して全脳照射を省いたSRSの有効性が報告されていますが、症例によっては全脳照射が必要な場合もあります。
9個の多発脳転移に対するVMAT

多発転移性脳腫瘍 (海馬回避全脳照射)

51歳男性。脳内に多発脳転移を認め、そのうち直径1 cm以上の3つの腫瘍に対して5グレイ×10回、全脳に3グレイ×10回のVMATを行いました。全脳照射後の認知機能低下が深刻な問題となる場合がありますが、海馬の線量を低減させることによる認知機能温存の可能性が報告されています。VMATにより海馬を回避して全脳照射を行いつつ、脳転移にピンポイントで強い放射線を正確に照射することができます。
海馬を回避した全脳照射と脳転移に対するVMAT

悪性神経膠腫

70歳男性。高悪性度神経膠腫に対してVMATを行いました。悪性神経膠腫は病変が急速に拡がるため、当院ではMRIやメチオニンPETを活用して病変の拡がりを把握して治療計画を行っています。メチオニンPETは限られた施設でしか検査ができませんが、非常に高い有用性が報告されています。この症例は手術が困難であったため、メチオニンPETの集積範囲に2グレイ×30回(集積が高い病変中心に2.4グレイ×30回)、予防領域に1.8グレイ×30回と線量を増加して治療しました。
メチオニンPETとMRIによる悪性神経膠腫の病変拡がり診断

髄膜腫術後再発

65歳女性。左小脳橋角部の髄膜腫に対して2グレイ×25回のVMATを行いました。病変は脳幹(生命維持に関わる器官)を圧排しており、手術で腫瘍を完全に摘出するのが困難なため、追加治療として当院に紹介されました。脳幹に高線量が照射されると神経障害を生じる可能性がありますが、VMATとIGRTを用いて脳幹の線量を低減させながら病変に強い放射線が照射できます。このように、良性腫瘍に対しても放射線治療は非常に有効で、場所によってはさらに高線量で照射する場合もあります。
脳幹の線量を軽減した髄膜腫に対するVMAT

頭頸部

中咽頭癌

45歳女性。中咽頭癌に対して2.2 グレイ×30回、同側リンパ節転移に2.0グレイ×30回、予防リンパ節領域に1.8グレイ×30回のVMATを行いました。頭頸部癌はしばしばリンパ節転移を生じるため照射野が大きくなる場合が多いですが、VMATでは線量強度を変化させて予防照射を行いながら腫瘍のみに高線量を集中させることができます。唾液腺(耳下腺)の線量を低減させることで、放射線治療後の唾液腺障害を最小限におさえることができます。
耳下腺線量を軽減した中咽頭癌に対するVMAT

喉頭癌

64歳男性。喉頭癌に対して3グレイ×18回の回転原体照射を行いました。喉頭には多くの空気が存在し、照射野内に空気を含むと治療計画装置で線量強度分布を正確に計算することができません。そこで、当院では照射中にのどに力を入れて声帯を閉じることで、できる限り照射野内の空気を除くよう工夫しています。
声帯の動きと喉頭癌に対する回転原体照射

舌癌

74歳男性。舌癌に対して2.2グレイ×30回のVMATを行いました。放射線照射による口内炎の範囲をできるだけ小さくするため、予防領域を含みながら病変に限局した照射野で治療する必要があります。X線CTのみでは歯に充填した金属のアーチファクトで病変の拡がりを判断するのが困難なため、当院ではMRIやPET画像などを積極的に活用しています。
MRIやPETを利用した舌癌の病変抽出

口唇癌

73歳男性。口唇癌に対して2 グレイ×10回の電子線治療と2グレイ×20回のVMATを行いました。電子線は口唇表面、VMATは深部の浸潤病変に対して行いました。効果的な線量強度分布を達成するため、特殊なソフトウェアを用いてCT画像から3次元データを再構成し、3Dプリンタで口からあごにかけてフィットした自作のボーラスを作製しました。ボーラスの中には人体と等価なゲルを充填しています。これらの作業は医学物理士が行います。近年は3Dプリンタの医療への応用が注目されています。
3Dプリンタで自作した口唇癌治療用ゲルボーラス

胸部

乳癌転移性肺腫瘍

67歳女性。病変が右の肺門部(主気管支の根元)に近かったため、より安全を考慮して6グレイ×10回のSBRTを行いました。病変が小さく肺門部から距離がある場合は12グレイ×4回で治療することもあります。呼吸管理システムを用いた息止め(呼気静止)照射により過度に大きな照射野を取らなくて済むため、正常な肺の線量を低減させることができます。
呼吸管理システムを用いた呼気静止下によるSBRT

左乳房温存照射

79歳女性。乳癌手術後の温存乳房に対して、2グレイ×25回の放射線治療を行いました。従来の方法では皮膚に高線量が照射され皮膚炎が生じる可能性があるため、フィールド-イン-フィールドという手法を用いて乳房に均一な照射を行いました。また、左乳房照射では心臓に照射された高線量による心臓関連障害が報告されていますが、当院では呼吸管理システムを用いて深吸気呼吸静止下にて照射し、心臓の線量を低減させています。
深吸気呼吸静止下による左乳房温存照射

胃癌および食道癌

81歳男性。胃体部進行癌と胸部食道癌を併発されましたが、同時手術が困難なため胃癌のみ手術し、食道癌に対しては抗がん剤と放射線治療を併用するため当院に紹介されました。照射範囲が広く、VMATのみでは左右両方の肺に低線量の散乱線が拡がる可能性があるため、従来の手法(対向2門)を併用した2 グレイ×30回のハイブリッドVMATを行いました。これにより、肺のみならず心臓や脊髄の線量を低減させることができます。
食道癌に対するハイブリッドVMAT

腹部

膵臓癌転移性肝腫瘍

71歳男性。2か所の肝転移に対して、それぞれ12 グレイ×4回のSBRTを行いました。肝臓は横隔膜の動きと連動して大きく動くため、従来の自由呼吸下による大きな照射野では正常な肝臓が広く照射されてしまいます。当院では呼気静止下によるピンポイント照射を行っていますが、それにより複数個の転移に対して治療を行うことが可能となりました。
2個の肝転移に対する3次元原体照射

腎臓癌

92歳男性。右腎臓癌に対して5 グレイ×10回のSBRTを行いました。一般的に腎臓癌は放射線治療が効きにくいとされていますが、近年SBRTの有効性が報告され保険適応が可能です。ただし、周囲には放射線に弱い腸があるので、腸の線量を考慮した治療計画が必要となります。腎臓も呼吸性移動を伴うので、当院では呼気静止下による照射を行っています。
腎臓癌に対するVMATによるSBRT

胆管癌

81歳男性。PETで集積が強く悪性度が高い病変が疑われる胆管下部に対して2グレイ×28回、浸潤が疑われる胆管全体に1.8グレイ×28回のVMATを行いました。病変の周囲は放射線に弱い胃や腸が隣接しているため、可能な限り病変に絞った照射が必須です。また、呼吸により病変が動くので息止め照射も有効です
胆管癌に対する線量強度を変化させたVMAT

切除不能膵臓癌

73歳男性。根治切除目的で開腹手術が実施されましたが、術中に切除不能と判断された症例です。ご本人様のご希望で当院に紹介されました。膵臓癌は早期に発見し辛いため進行して見つかることが多く、周囲は放射線に弱い胃や小腸で囲まれているため高線量による放射線治療は困難ですが、PETで集積を認めた病変の中心に3グレイ×22回、周囲の浸潤病変に2.5グレイ×22回と線量を増強したVMATを行いました。当院では治療困難な患者様に対しても、『最後まであきらめない治療』をモットーとしています。
膵臓癌に対するVMAT

骨盤部

前立腺癌および膀胱癌術後再発

82歳男性。前立腺癌および膀胱癌術後再発病変に対して3 グレイ×20回のVMATを行いました。前立腺癌の照射では、数年後まれに直腸出血を起こすことがあるので、直腸に照射される線量を低減させることが大切です。毎日の照射直前にコーンビームCTを撮影して膀胱や直腸の容量を確認しますが、畜尿量が少ない場合は飲水の追加や、腸にガスを認める場合はチューブでガス抜きをさせていただく場合もあります。
前立腺癌と膀胱癌に対するVMAT

尿管癌

右尿管癌に対して3 グレイ×20回のVMATを行いました。骨盤内には放射線に弱い腸があるため、腸に照射される線量を低減させる必要があります。また、腸は常に動くためある程度の余裕を考慮する必要もあります。実際には60 グレイを腸に照射することはできないので、VMATの技術を用いて安全に照射可能な範囲にのみ高線量を集中させました。放射線強度を自由に変化できることがVMATの強みです。
小腸が隣接した尿管癌に対するVMAT

前立腺癌術後再発

79歳男性。前立腺癌手術癌術後の再発部位に、救済治療として2.2グレイ×33回のVMATを行いました。前立腺自体がなく、膀胱や直腸などの正常組織が入り組んでいるため、特にそれらに照射される線量に配慮する必要があります。非常に困難な治療法になりますが、IGRTとVMATを用いれば再発部位に的確に高線量を照射することができます。
前立腺癌術後再発病変に対するVMAT

脊髄・その他

肝臓癌多発骨転移

81歳男性。第3、7および11胸椎の骨転移に対して3グレイ×15回のVMATを行いました。脊髄に高い線量が照射されると数年後に重篤な有害事象(副作用)を起こすことがあるため、脊髄線量はとても重要です。CT撮影では病変や脊髄は確認できないため、当院ではMRIで脊髄の位置を確認しています。症例によってはさらに強い線量で照射する場合もあります。
脊髄線量を軽減した脊椎VMAT

胚細胞腫(全脳全脊髄照射

18歳女性。脳室に2.4グレイ×10回、全脳と脊髄全体に1.8グレイ×10回のVMATを行いました。一般的には全脳照射は左右対向2門、全脊髄は背中側からの一門照射が行われていますが、骨に強い放射線が照射されると骨髄がダメージを受けて、必要な血液細胞を作ることができなくなります。VMATでは椎体の線量を低減させ、白血球数減少などを軽減することができます。
全脳と全脊髄に対するVMAT