がん医療の状況

がん医療の状況

がんに関する現状

日本国内において1年間で新たに「がん」と診断される患者数は、2018年の統計データによると980,856人 (上皮内がんを除く)*1であり、今後の推計においても年間1,172,700人 (2035~2039年の5年間での平均)*2まで増加すると予測されています。

また、がんは1981年以降2020年現在に至るまで死因順位の第一位*3であるほか、いまや日本人の2人に1人が一生のうちにがんと診断される時代となり(2018年の生涯がん罹患リスク…男性:65.0 %,女性:50.2 %)*4、以前と比べてより身近な病気になったことを認識する必要があります。

しかし一方で、2020年におけるがんが直接の原因となって死亡する確率 (生涯がん死亡リスク) は、男性:4人に1人 (26.7 %)、女性:6人に1人 (17.9 %)*5であり、罹患リスクと比較して低い統計結果となっています。これは主に、検査装置の改良によりがんの早期発見が増えたことや、治療技術の進歩に伴い完治率が高まったことなどが要因と考えられます。

【出典】
*1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
*2 平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
*3 厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」(性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合)
*4 国立がん研究センターがん情報サービス「累積罹患リスク(グラフデータベース)」
*5 がん研究センターがん情報サービス「累積死亡リスク(グラフデータベース)」

がん治療法の種類と選択

 がんの治療法として一般的に知られているのは「手術 (外科的治療)」、「薬物療法 (抗がん剤)」および「放射線治療」であり、これらは「がんの三大療法」と呼ばれています。
 これまで、日本国内では新規がんの治療として手術が選択されることが多く、放射線治療の割合に関しては欧米と比べて低い傾向にありました。 しかし、がんの種類や進行度によっては単独の手法による治療成績の向上に限界があることも事実であり、近年ではがんに対する「集学的治療」*1、すなわち前述の三大療法を組み合わせ、そこに支持療法や緩和ケアなどを併用する治療が主流となっています。それぞれの治療法の特長をよく理解し、がん以外の持病の既往歴や生活環境などを考慮した上で、患者様にとってもっとも効果の期待できる治療法を選択することが重要となります。 また、高齢化が進む現代日本において、手術など侵襲的な治療が難しい患者様が増加している背景があることから、非侵襲的にピンポイントで治療可能な高精度放射線治療の必要性も高まっています。

【出典】
*1国立がん研究センターがん情報サービス「集学的治療」

放射線治療について

放射線照射による細胞内の変化

放射線は目に見えず、照射されても痛みや痒みなどを感じることはありませんが、体内の細胞レベルでは損傷を与えています。がん細胞に放射線が照射されるとDNAが切断され、それによってがん細胞は分裂・増殖する能力を失い徐々に縮小していきます。当然、DNAの切断はがん細胞の周囲にある正常細胞でも起こりますが、正常細胞はがん細胞よりも修復する能力が高いため、損傷の程度は比較的軽度で済みます。放射線治療はこの性質を利用しており、がん細胞の制御に充分な線量の放射線を照射することができるのです。

分割照射の意義とメリット

がん細胞は腫瘍内に形成された血管から酸素を取り込みますが、一部には充分に酸素が行き届かない領域(=低酸素領域)も存在します。放射線は酸素が豊富な環境下において強い殺細胞効果を示すため、腫瘍に照射することで酸素濃度の高い領域から細胞が死滅していきます。それによって周囲の低酸素領域の細胞にも酸素が行き届くようになり、次第に酸素濃度の高い領域に変化するという仕組みです。このメカニズムを分割照射による再酸素化と言い、これを繰り返すことで効果的に腫瘍を縮小させることができるため、分割照射が単回照射よりも優れている理由のひとつとされています。

当クリニックが目指す高精度放射線治療

放射線をがん細胞だけに限局して照射することができれば、正常細胞への副作用を考慮する必要のない理想的な治療が可能と言えます。しかし、現実的には正常細胞に全く放射線を照射せずに治療することは出来ないため、前述のがん細胞と正常細胞での修復能力の違いや分割照射による再酸素化を生かし、複数回に分けて少しずつ照射することになります。  従来の放射線治療では、腫瘍周囲の正常組織を大きく含む広範囲を照射野としていたため、治療による有害事象を軽減させるためにも分割回数を多く設定していました。当クリニックでは、腫瘍部分に対してより集中的に照射するような治療計画を作成することで、正常組織への影響を最小限に抑え、安全な治療を短期間で行うことを目指しています。