照射技術

強度変調放射線治療
(IMRT, intensity-modulated radiation therapy)

2000年頃から国内に導入された、がんに対する高精度放射線治療の照射技術です。高エネルギーX線を用いて腫瘍に放射線を集中させ、正常組織への無駄な照射を減らすことができます。副作用が少なく、より強い放射線を腫瘍に照射できるため、高い治療効果が期待できます。 図1は前立腺癌に対する放射線治療の線量強度分布の一例を示します。図1(a) の従来の方法では均一な放射線で照射されるため、放射線により障害を受けやすい直腸も同時に照射されてしまいます。一方、IMRTではマルチリーフコリメータ (MLC) (図2) という薄い金属板をコンピュータ制御で複雑に移動しながら照射することで、照射野内の放射線強度を変化させることができます。その結果、図1(b) に示すように直腸の線量を顕著に減らすことができます。
図1.前立腺癌に対する放射線治療の線量強度分布
一般的なMLCの1枚の厚さは5~10 mmですが、ノバリスTxのマイクロMLCの1枚の厚さは2.5 mmと世界最薄で、小さい腫瘍に対してよりフィットした照射野で治療することができます。
図2.ノバリスTxのマイクロマルチリーフコリメータ (MLC)

強度変調回転照射 (VMAT, volumetric-modulated arc therapy)

2010年頃から国内に導入された、IMRTをさらに発展させた高精度放射線治療の照射技術です。治療装置のガントリが回転しながらIMRT照射を行うことでより腫瘍に集中し、かつ短時間で照射することができます(図3)。IMRTでは15分~20分程度の照射時間を有するのに対し、VMATでは5分以内で照射することができます。当院では治療センター開設当初からいち早くVMAT治療を開始し、これまで3000例以上の治療を行っています。これらの線量計算には、放射線治療計画装置というコンピュータを用いて最適化計算を行いますが、その作業は学会認定を受けた医学物理士が担当しています。実際の照射は、学会認定を受けた放射線治療専門放射線技師が担当しています。
図3.IMRTとVMATの線量強度分布

定位放射線治療 (SRS, stereotactic radiosurgery)

主に転移性脳腫瘍の治療の際に用いる技術で、頭部を特殊なプラスチック製の固定具で固定し、1 mm以内の精度でピンポイント照射を行います。腫瘍の大きさにもよりますが、1回から数回で治療が完遂します。プラスチック製の固定具を用いるため、頭蓋骨にドリルで穴を開けて固定する方法と異なりほとんど痛みを感じません。複雑な形状の腫瘍に対してはVMATの技術を用いてSRSを行うこともあります。
図4.頭部SRSに対する6回転のビーム配置 (a) と線量強度分布 (b)

体幹部定位放射線治療 (SBRT, stereotactic body radiotherapy)

主に肺、肝臓、腎臓、脊椎腫瘍などの原発性腫瘍や転移性腫瘍に対する治療として実施します。数回から10回の照射回数で治療が完遂します。国内では肺癌の手術不能例に実施されることが多く、治療成績も非常に良好です。同様に、その他の部位に対するSBRTの有用性も報告されており、特に小さい腫瘍に対してピンポイント照射を行えば治療後の副作用は少なく済みます。呼吸性移動を伴う病変に対しては、特別な装置で呼吸を監視しながら10秒程度息を止めて治療を行います。
図5.原発性肺癌に対するSBRTの8方向のビーム配置 (a) と線量強度分布

画像誘導放射線治療 (IGRT, image-guided radiotherapy)

毎回の照射ごとに、リニアックに付属したステレオX線システムを用いた骨構造や (図6a)、コーンビームCTを用いた腫瘍を基準とした位置合わせ (図6b) により高精度な照射を行う技術です。主にVMATやSRS、SBRTを実施する際に併用します。これにより、日々の腫瘍と正常組織の位置関係の変化や、照射中の病変の呼吸性移動などに対応することができます。
図6.ステレオX線位置照合システムによる頭部の画像 (a) とコーンビーム CTによる前立腺位置合わせの画像(b)